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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)8196号 判決

反訴原告 株式会社 大山商事

右代表者代表取締役 大山良信こと 李良信

右訴訟代理人弁護士 駒場豊

反訴被告 小田急建設株式会社

右代表者代表取締役 小出寿太郎

〈ほか三名〉

右四名訴訟代理人弁護士 加茂隆康

主文

一  反訴原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告ら(以下、単に「被告」という。)は、反訴原告(以下、単に「原告」という。)に対し、各自一七五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一四日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  第一項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生(以下、この事故を「本件事故」という。)

(1) 日時 昭和六三年四月二二日午後〇時二〇分ころ

(2) 場所 東京都新宿区西新宿六丁目二〇番六号先路上(以下、「本件路上」という。)

(3) 被害車 普通乗用車(メルセデス・ベンツ横浜三三と二三〇三)

右運転者 槙博志

右所有者 原告

(4) 加害車 普通乗用車(相模四五な九五五八、以下「甲車」という。)

右運転者 被告中村

(5) 加害車 軽四輪貨物自動車(品川四〇ね一六五五、以下、「乙車」という。)

右運転者 被告富本

(6) 態様 転回しようとした甲車が対向してきた乙車の側面に衝突し、その結果、乙車が被害車の後部に追突した。

2  責任原因

(1) 被告小田急建設及び同中村剛について

① 被告小田急建設は、その事業の執行につき、同中村を使用していた。

② 被告中村は、普通乗用車を運転して転回をしようとするときは、転回しようとする道路及び対向してくる自動車の状況に注意すべきであるのにこれを怠ったため、本件事故が発生した。

(2) 被告ライオン事務器及び同富本について

① 被告ライオン事務器は、その事業の執行につき、同富本を使用していた。

② 被告富本は、自動車を運転するときは、前方を注意すると共に、転回しようとする自動車を発見したときは、ハンドル、ブレーキを適切に操作して事故の発生を未然に防止すべきであるのにこれを怠ったため、本件事故が発生した。

3  原告の損害

(1) 修理代 五四万一二〇〇円

(2) 代車の賃借料 一七五万五〇〇〇円

本件事故により、原告は代車の必要が生じたので、被害車と同じメルセデス・ベンツを借りた。また、被害車にはテレビ及び自動車電話が設置されていたので、代車についても同様の設備を施した。この車両の賃借料は一日当たり四万五〇〇〇円であり、賃借期間は三九日であるので、合計一七五万五〇〇〇円となる。

4  原告は、被告小田急建設から、五四万一二〇〇円の支払いを受けた。

5  よって、原告は、民法七〇九条及び同法七一五条により、各自被告らに対し、本件事故による損害として、既払い金を除く一七五万五〇〇〇円及びこれに対する本件反訴状送達の翌日である昭和六三年一〇月一四日から支払い済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2(1)及び(2)①の事実は認めるが、(2)②の事実は否認ないし争う。

3  同3(1)の事実のうち修理代は五四万一二〇〇円であることは認めるが、修理代のうち、バンパーの金メッキ代一四万八〇〇〇円については本件事故と相当因果関係のあることは争い、その余は認める。同(2)の事実は、因果関係を含め否認する。

4  同4の事実は認める。

第三証拠《省略》

理由

一  請求の原因1について

請求の原因1の事実は、当事者間に争いはない。

二  請求の原因2について

請求の原因2の事実のうち(1)及び(2)①は当事者間に争いはない。また、本件全記録によるも、同(2)②の事実を認めるに足る証拠はない。従って、被告小田急建設及び同中村は各自原告に生じた後記損害を賠償する責任があるが、被告ライオン事務器及び同富本に対する責任原因は、認めることができない。

三  請求の原因3(1)について

1  請求の原因3(1)の事実のうち、修理代が五四万一二〇〇円であること、及び右修理代のうちバンパーの金メッキ代を除いた三九万三二〇〇円については本件事故と相当因果関係のあることは当事者間に争いがない。

2  被告らは、原告が負担した修理代のうち、バンパーを金メッキするのに要した一四万八〇〇〇円につき本件事故と相当因果関係のない旨主張する。

修理代は、交通事故により損傷を受けた自動車を事故前の状態に回復するために必要な費用であるから、原則として事故と相当因果関係のある損害ということができる。けれども、自動車は本来道路の走行を予定しているのであるから、他の自動車などとの衝突はいわば自動車に随伴する不可避的な危険というべきものであり、従って、自動車の所有者は、その自動車にどのような機器を備えようともどのような部品を使用しようとも本来自由であるといっても、その具体的な機器・部品によってはその修理代のすべてを事故と相当因果関係のある損害と解する事はできないというべきである。

本件の金メッキをしたバンパーは金メッキをしていない普通のバンパーと比べて、少しもその効用を増加せしめるものではなく、却って、交通事故発生の際は、自己の損害を拡大させる結果となるばかりか、そもそもバンパーは、交通事故が発生した場合に、自動車本体の損傷及び搭乗者の死傷を防止もしくは軽減させることを目的としているのであるから、バンパーに金メッキをすること自体社会的にみて相当な行為とはいえないというべきである。従って、バンパーに金メッキをするための費用は交通事故から通常発生する損害ということはできない。そして、本件記録中には甲車を運転していた被告中村にはバンパーが金メッキであることを予見していたことを認めうる証拠はない。そこで、原告のバンパーに金メッキをするための費用は、本件事故と相当因果関係のある損害ということができない。

四  請求の原因3(2)について

1  原告は、被害車の代車を借りたと主張して代車料を請求し、これを裏づける証拠として《証拠省略》が存する。右証拠によると、原告はガレージ三〇五こと久保和郎から被害車と同じメルセデス・ベンツ(横三三と四〇八四)を一日当たり三万円で、テレビ及び自動車用電話を一日当たり一万五〇〇〇円で、昭和六三年四月二五日から同年六月二日までの三九日間にわたり借り受け、合計一七五万五〇〇〇円を要した旨の記載がある。

2  代車の期間について

前記当事者間に争いのない事実、《証拠省略》によると、本件事故により被害車は後部右バンパー及び後部右尾灯付近を損傷したが自力で走行できたこと、原告従業員は事故の翌日頃に被害車を購入したガレージ三〇五こと久保和郎の修理工場に運んで修理を依頼したこと、久保は昭和六三年五月二日に株式会社ヤナセ横浜支店に被害車を持ち込んで修理の見積りを求めたこと、同支店で被害車の修理の見積りをした鈴木は、バンパー部分の金メッキを除いた修理内容、部品代及び工賃、修理し当日中に引き渡しできることを記載した「ボデー見積書」を久保に交付したが、久保はりそう自動車に修理を依頼し、同月一四日に完了して久保に引き渡されたこと、りそう自動車ではバンパー部分の金メッキは行っていなかったこと、その後、久保が発行した「交換部品費及び工賃明細書」(発行日は記載されていないが、同月二〇日付けの住友海上の受付印がある。)では、同支店の見積とほぼ同じ内容のほか、バンパー部分の金メッキ代も合わせて請求していること、久保は、同月二五日ころに被害車を右支店に預け、そのころ修理を依頼したが、その内容は六箇月点検程度の点検であり、合わせて若干の修理を求めたが、本件事故による修理として行われたものではないこと、鈴木は本件事故程度では通常ではせいぜい二週間もあれば修理期間として十分であると考えていること、以上の各事実を認めることができる。《証拠判断省略》

右事実を前提とすると、被害車の修理に要する相当な期間としては五日とすることが相当である。

なお、被告は、被害車の車検期間は昭和六三年五月一五日までであるから、継続して使用するためには車検を更新する必要があり、そのための期間は代車を必要とする期間には含まれないとする。しかし、前記認定の期間であれば、その後に車検の手続きをすることも十分に考えられるから、被告の主張は採用できない。

3  相当な代車について

《証拠省略》によると、原告代表者は本件事故当時遊戯店である原告を経営するほか、原告の関連会社である不動産会社の経営、株式取引などを行っており、それに関連して被害車を使用していたことを認めることができるけれども、その使用目的からして敢えて原告が、メルセデス・ベンツを使用しなければならない必要性は認めることができない。そうすると、原告としては、国産の上級の高級車をもって被害車の代車とすることが相当であり、それを超えて被害車と同じメルセデス・ベンツを代車として請求することは、本件事故と相当因果関係を欠くものである。

次に、国産の上級の高級車を代車とした場合の代車料を幾らと見るべきかであるが、代車料の一覧表である《証拠省略》も存在するが、被告らはより高額である一日当たり二万円を相当とする旨自認しているのであるから、この金額によるべきである。

従って、本件事故と相当因果関係のある代車料としては一〇万円となる。

4  自動車用電話及びテレビについて

《証拠省略》によると、被害車には自動車用電話及びテレビが設置されていたが、被害車の損壊により使用ができなくなったことを認めることができ、右認定に反する証拠はない。原告は自動車用電話及びテレビの使用不能は本件事故と相当因果関係はない旨主張するけれども、現在の社会情勢に照らせば自動車に自動車用電話又はテレビの設置されていることは通常あり得ることであるから、本件事故による自動車用電話及びテレビの使用不能は本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。そして、交通事故により自動車用電話又はテレビが損壊されたときは格別、本件のごとき自動車が損壊し、その修理のために自動車を従前の様に使用できなくなった結果自動車用電話又はテレビを使用できなくなったときは、原則として自動車用電話又はテレビの移設に必要な費用及び移設までの間のこれらの賃借料を請求できるものであるが、自動車用電話又はテレビの移設に必要な期間内に自動車の修理の終了する等の事情のあるときは、その修理期間に対応する期間の自動車用電話又はテレビの賃借料のみ請求できるものと解することが相当である(但し、テレビについては、移設を必要とするものに限る。)。《証拠省略》によると、自動車用電話の移設には通常五日ないし七日程度を要するものと認めることができるけれども、本件における被害車の修理期間としては五日間とすべきこと前記のとおりであるから、自動車用電話の賃借料のみを本件事故による自動車用電話の使用不能による損害となるというべきである。そして、自動車用電話の相当な賃借料が幾らであるかを認めるに足る証拠はない。又、テレビについても、移設工事に要する期間を認めるに足る証拠はないし、相当な賃借料が幾らであるかを認めるに足る証拠もないから、結局テレビの賃借料も認めることもできない。《証拠省略》の前記記載は、証人久保和郎が代車とした車両の料金は低額に定めたのでこれを考慮して自動車用電話及びテレビの料金を比較的高額に決めた旨の証言によると、自動車用電話及びテレビの料金は相当な時価を前提とするものではないので、直ちに採用できない。

以上によると、原告が自動車用電話及びテレビの使用不能として請求できる損害額はないこととなる。

5  以上を総合すると、原告が本件事故により受けた損害額は四九万三二〇〇円となる。

五  損害の填補

請求の原因4の事実は、当事者間に争いがない。従って、原告の損害額は既に填補されていることになる。

六  結論

以上のとおり、原告の本件請求は失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長久保守夫)

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